「歩き方を変える」とは「脳を書き換える」ということ。

「歩き方を変える」とは「脳を書き換える」ということ。
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歩くという動作の中で脳がどのように働いているのかを考えてみたことがありますか?

歩き方と身体や動きとの繋がりはイメージしやすいかと思いますが、歩き方と脳との繋がりと聞いてピンとくる方はあまり多くないかもしれません。しかし実は、歩き方をはじめ動きを変えていくということは脳を変えていくことに他ならないのです。

今回の記事では、歩き方を変えていくということは脳をどのように変えていくことなのかを考えてみましょう。

歩行とは『自動化』された動き

あなたは歩くときに、自分がどのような歩き方しているか常に考えていますか?

ほぼ全ての方が「No」と答えるはずです。
それもそのはず、歩くという動作は無意識的かつ自動的に行われる動作だからです。無意識的に歩くことができるからこそ、歩きながら考えることができたり、歩きながら周囲の景色を楽しんだり、歩きながら話したりすることができるのです。自分が今どのように歩いているかを考えるということは、自動化された歩き方を意識的に取り出すことであり、歩く以外のものに意識を向けることが難しくなることを意味します。

例えば、「大股で歩く」「腕を大きく振る」「骨盤の動きをコントロールする」などといったことを考えながら歩くことは、意識的に歩く動きをつくることに他なりません。

一度にたくさんの動きを変えることはできない。

歩きながら意識的にコントロールできるのは、多くても2つ程度です。それ以上のことを考えたり、動きを調整しようとするとほぼ間違いなくぎこちない動きとなります。

歩き方を意識的に修正しようとする場合には、できるだけ自動化された動きを妨げず、思考に負荷をかけすぎないシンプルなものが望ましいです。このようなシンプルな要素を一つ一つ無意識化に落とし込み、少しずつ歩き方を修正していくのです。ある一つのコツで全ての人の歩き方が適切なものに変わるようなものはありません。時間をかけて着実に積み上げていきましょう。

歩き方は脳の〇〇に保存される

歩き方を「意識的」「無意識的」に変えていく過程において、脳の様々な部位が非常に重要な役割を果たしています。

意識的な『一次運動野』

『大脳皮質の運動野(一次運動野)』は意識的な動作に活動する部分で、歩き方そのものを「考えながら」行なっている場合に働きます。歩き方を変えていく際の第一段階はこの大脳皮質レベルです。逆に考えないと適切に歩けないということは、まだまだ大脳皮質レベルで歩行を調整しているということであり、意識している部分についてはまだ自動化されていない証拠でもあります。

では自動化された歩き方を身につけるには、脳のどの部分が働くのでしょうか?

無意識的な『小脳・基底核・CPG』

自動化された歩き方を身につける上で、重要な脳の部位は「小脳・基底核・CPG」です。それぞれを簡単に説明しましょう。

『小脳』は運動の調整とバランスを担っており、歩行中の身体を安定化させつつ動きを微調整することで滑らかな動きを可能にしています。

『大脳基底核』スピードの変化に対応しながらリズミカルかつ反復的で自動化された動作を促進しつつ不要な動作を抑制することで、歩行というパターン化された動きを最適化するように調整します。

『脊髄の中枢パターン発生器(CPG:Central Pattern Generator)』は脊髄内に存在する神経回路で歩行の基本的なリズムパターンを作り出します。

歩き方を適切なものに変えるとは、この小脳と大脳基底核、CPGにまで変化を起こし、無意識下で自動的に適切な歩き方ができるようになるところまで変えていくということです。

歩き方を変えるということはこの部分に対する難しさがあり、時間がかかる要因でもあります。子どもがハイハイから2足歩行を習得していく過程は、元々持っていない歩行パターンを身につけていく段階なので新しいものをどんどん吸収し身につけていくことが可能です。特にスポーツにおいてゴールデンエイジと呼ばれる9歳から12歳の時期が、運動能力や神経系の発達が非常に活発で、運動技能を習得しやすい期間と言われています(※プレ・ポストゴールデンエイジを含めると5〜15歳)。この年齢をすでに経過した特に成人以降は、これまでに身につけているすでに出来上がってしまったパターン化された歩き方、つまり『歩き方の癖』のみならず、染み付いた身体の硬さを取り除きながら新しいものに切り替えていく必要があるのです。

「自然とそうなる」のが理想

うまく歩けるようになるためには、身につけようと考えている歩き方に対して「心地よさ・快適さ」を感じる必要があります。例えば、歩いていると気持ちいい、ラク、スムーズ、など肯定的な表現が自然と生まれるような歩き方です。

脳が何かを身につけるためには脳内の『報酬系』に働きかける必要があり、この報酬系には特に「ポジティブな感情」が有効とされています。歩くとぎこちない感じがする、違和感が強すぎる、強く考え続けていないとできないような歩き方は「心地よさ・快適さ」とは程遠く、自然と身につけることが難しくなります

意識するのは最小限に、自然と心地よさを感じる快適な歩き方を身につけていくのです。それはただその人にとって快適なものだけ都合のいいものだけを身につけていくのではなく、今の身体では快適に感じられないものであったとしても快適に感じられるような身体を作り上げた上で、それを歩く中で自然と心地よく扱いこなせるようにしていくのです。

新しい歩き方を身につける過程で、歩き方を学ぶだけでは不十分なのはこのような理由からです。歩き方を変えるにはまず自分自身の身体を変えること。そして新しい身体で新しい感覚を手に入れ、シンプルな変化を積み上げていくことで脳を書き換えながら適切な歩き方を身につけていきましょう。

カラダ Design Lab.
代表 堤 和也

記事執筆者

堤 和也

堤 和也 【カラダ Design Walking創設者】【カラダ Design Lab.代表】 【理学療法士】

人が主体的に生きていく上で欠かすことのできない『運動』という共通項に対して、誰もがいくつになってもそれぞれが自分らしく生きていける身体を作り上げることのできる世の中を目指しています。

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